其の二
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同家の裏手に今も残っている土蔵風の建物の二階八畳には、多くの蔵書があった。そして階下が隠居部屋で二階には誰も入れないことになっていたのだが、私は子どものことだから、自由に蔵書のある所へ出入りして本を読むことができた。あまり静かなので、階下から心配して「寝てやしないか」と声を掛けることがあったほど、私はそれらの蔵書を耽読した。その間はいたずらもしないので、家人は安心したのであろう。いろいろな種類を含む蔵書で、和漢の間には草双紙類もあって、読み放題に読んだのだが、私の雑学風の基礎はこの一年ばかりの間に形づくられたように思う。
私はこの三木家の恩誼を終生忘れることができない。
(故郷七十年 幼時の読書)