其の四
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そこ(有井堂)から一丁ほど北の方に氏神の鈴の森神社があり、大きなやまももの樹があった。またを明神様ともいい、村人は赤ん坊が生まれると、みなその氏神に詣でて小豆飯を供えていた。その余りを一箸ずつ、集まって来た子どもたちのさし出す掌の上にのせるのがならわしであり、村の童たちの楽しみでもあった。前もって、その日を知って、童たちは神社へ集まってくるのであった。母親が「よろしくお願いしますよ」と、いいながら呉れる一箸の赤飯に、私は掌を出したことはなかった。親に叱られるからでもある。私は後年この氏神様を偲んで、こんな歌を作ったことがある。
うぶすなの森のやまもも高麗犬は懐かしきかなもの言はねども
(故郷七十年 鈴の森神社)